英語を習得する目的を理解しよう。

撮影 浅井岳史 私は時より「どうやったら英語ができるようになるのでしょうか」という漠然とした質問を受けることがあります。いつだったか「なぜ英語ができるようになりたいのですか」と逆に聞いたらその方は「TOEICで良い点を取りたいから」とおっしゃいました。英語を学ぶ目的は極めて主観的なものですから私はその人それぞれの理由があってかまわないと思います。ただ、一つ言えるのは英語というのは言うまでもなく外国の言語ですからそれをマスターするということは生半可な努力では絶対無理だということです。ですから、試験で良い点をとりたいから、昇進試験に受かりたいからという程度の動機では最低限の英語力さえもつかないのではないかと思います。「保母さんになりたいからピアノを習う」という人がピアニストになれるわけがありません。仮にその人の目的がTOEICの点数であったとしても、「本当に使える英語をマスターする」という動機を持つべきです。それが実は一番早く短い時間で英語をマスターすることにつながり、結果的にTOEICで高得点を取る近道、いや唯一の方法になるからです。

では、「本当に使える英語をマスターする」メリットはなんでしょうか。旧約聖書に、人類がバベルの塔と建てて神に近づこうとしたたたりで、人々が様々な言語をしゃべるようになったという下りがあります。やはりそれはコミュニケーションの障害になります。そこで人々は各々の時代に、lingua franca (共通語)を使ってきました。中世のラテン語、近世のフランス語に然り。現代の lingua franca、それは英語であることは間違いありません。英語はアメリカ合衆国とイギリスの母国語だけではもはや無くなり、世界中の人が第二言語として話す国際語になりました。これからもそうであり続けるでしょう。私は一昨日も職場でカンファレンスコールを行いましたが、ミューヘンからドイツ人が、パリからフランス人が、ニューヨークからはアメリカ人と中国人とインド人、カリフォルニアからは日本人というように英語を母国語としない人たちが大勢参加しました。議長である私はもちろん英語で会議をまとめ英語で上司に報告します。それだけたくさんの国の人が通訳を通さずに直接英語を使ってビジネスを行う時代になりました。したがって英語ができる、それも単なる英会話ではなくて、仕事を遂行できるだけの英語力を持っていないとこれからの現場にはついていけなくなります。逆についていければ世界で活躍できる切符を手にすることになります。英語ができれば即出世ということでは決してありませんが、これからは英語ができることが重要なポジションにつくには必要不可欠になるでしょう。

バイリンガルになるメリットは職場だけに限ったことではありません。世界には毎日たくさんの出来事が起こりますし、そういった最新の出来事やテクノロジー、文学や芸術など膨大な情報が英語圏に存在します。もし日本語しか読めないとしたらそういった第一線の情報にはアクセスできません。だれかが訳してくれるのを待てばいいのですが、私が最近気づいたことは、翻訳物にはもはやオリジナルが持つニュアンスがなくなっており、本物の情報に接することにはなりません。ひどい時には誰かが犯した誤訳を日本中の人が使っていることもあります。先ほどこれからは英語ができないと重要なポジションにつけないといったのは、そういう第一線の情報が理解できないで正しい決断は下せないと思うからなのです。これは、例えると靴を持っているか持っていないかというくらいの大きな差になると思います。靴を持っていなくても確かにテレビで外の様子を見ることができます。でも、靴を履いて外に出て実際に手で触ることができるということとの差は絶大なものがあります。したがって英語ができれば日本を外から客観的に分析し、それを自分の意思決定力や生活の豊かさに結びつけることができるのです。

「本当に使える英語をマスターする」メリットは列挙すればきりがありませんが、もう一つだけ私が気づいたことを述べます。それは英語に限らず外国語を深く勉強することは、自分の言語能力を高めるということになります。高度な言語をもった国から高度な文化が生まれるといわれます。高度な言語能力をもった人はどうでしょうか。英語を勉強することは自分の言語能力を高め、それが日本語の能力をも高めます。大学受験の時に私は国語が大の苦手でいつも苦労していました。特に現代国語はどうやって勉強したらいいかわからずに悩んでいたのですが、不思議なことに英語を勉強したら日本語もできるようになりました。私は現在仕事で翻訳されたソフトウェアのクオリティを検証したりしますが、英語を理解することが日本語を理解することにつながることを実感しています。英語を知るということは日本語をより一層知ることでもあります。

世界には日本にはない素晴らしい感動がいっぱいあります。残念ながらそれは日本語では味わえないものです。みなさんも是非外に出て、その素晴らしさに触れてみてください。英語の習得は確かに大変ですが、その労力以上の報酬があります。「自分が豊かな人生を送るため」、英語を勉強する目的をそう置き換えてみてはいかがでしょうか。