英語は手段でしかない。英語の勉強などしている場合ではない!

私は10年前にTOEFLで600点(TOEICの換算式を忘れましたが、TOEFL600点の私の友人がTOEICで920点を取っています。)を取り、それから6年後にハーバード大学エクステンション・スクールの英語テストで87%の正解率で大学院受講資格ライン70%をパスしました。ボストンでは通訳を務め今でもプロの翻訳者を指導する立場にあります。というとさぞかし英語をたくさん勉強したのだろうと思われると思いますが、こと勉強量に関しては非常に少ないことを自負しています。大学受験時は、現役でしかも国立大学志望でしたから英語は5教科7科目の一部でしかなく、得意科目は英語ではなく数学でした。大学時代から将来海外で働くことを目指していましたが、多分にもれず遊んでいました。商学部なので授業も英語には縁がなくて、ただNHKのラジオ講座は思い出しては聞いてときおりTIMEを買っては英英辞典を引き引きよんでいたのは覚えています。本格的に英語を勉強しなくてはと思ったのは、今から思うと遅かったのですが会社に入ってからでした。でも、なにせ時間がなく前章で述べたとおりTIME誌の購読とNHKのラジオ英会話とビデオ鑑賞が精一杯でした。したがって今から思うにはそれが私の英語学習のすべてだったと思います。

でも、決定的に英語力が伸びたのは英語の勉強をやめた後でした。ただし「やめた」というのは、英語の教材を開いて勉強する行為をしなくなったということであって、決して英語に接する事がなくなったということではありませんが、社会人三年目で私は会社のアジア・パシフィック部門の本社配属となり、文書がすべて英語になったのです。毎日膨大な(当時の自分には)量の英語を読み、自分でもたくさんの文書を書くようになりました。毎日それだけの英語を読んで書く仕事になったことが今から思うと私の英語力を高めた理由だったのでしょう。

その後どうしてもアメリカに行きたくなり、会社を辞めてウィスコンシン大学に入りましたが、TOEFLの点数が高かったために英語コースに入れずに、音楽学部ピアノ科に入学しました。一年後にボストンのバークリー音楽院ピアノ科に転入しそこを卒業するまで5年間、英語など一秒も勉強せずにひたすらピアノを弾いていました。英語どころか日本語さえ話さない日もありました。これは余談ですが、音楽を勉強したことは私の語学学習に大きな影響を与えました。音楽というものはそれ自体長い歴史のなかで培われた気の遠くなるような整然とした秩序があり、それを勉強することは英語を勉強することと酷似していることを発見したからです。よく音楽家は語学もできる方が多いといわれていますが、私はそういうことだと思います。このとき英語力はあまり伸びませんでしたが、言語というものは一体何なのかという深い視点で外国語および母国語を見ることを覚えたと思います。バークリー音楽院を卒業してからはアルバイトで通訳をしたり、語学学習ソフトウェア会社でプロジェクト・マネージャをしたりと気がついたら、今のポジションで英語を使って仕事をしています。

撮影 浅井岳史 ポイントは私は英語を勉強したのではなく、英語で仕事をし、英語で音楽やコンピューターを勉強したということです。「はじめに」で、私は英語の専門家ではないと言いましたが、それは私の専門はあくまでも音楽とITであって英語はその副産物に過ぎないということです。余談ですが、微積分はニュートンが万有引力の法則を解説するための手段に過ぎなかったとか。ある方が「英語は勉強するな」という本を書かれています。私は読んだことは無いのですが、その表題には納得します。英語というのはあくまでも手段であって目的ではありません。高校までは英語文法を”勉強”しますが、私はある程度までいったら後は実践で英語で仕事をし、英語で自分の専門分野を勉強すべきだと強く主張します。もし大学の英語学科みたいなところで英語を勉強し、サークルはESSで、職業は英語の教師という人がアメリカに来たら、その人は何を語るのでしょうか。かなり残酷な話ですが、一旦国際社会に出ると英語なんてできて当たり前になります。だって、そうでしょう。アジアの人もヨーロッパの人もみんな英語を外国語として習得して来ているのですから。そこでは「英語で何を語るのか」が問われます。となると人生で限られた貴重な時間を英語なんぞの勉強に使うのは本当に無駄なことなように思えてなりません。私はピアニストであって本当によかったと思います。英語で語りたいことがたくさんあり、そのためにアメリカ人の友達がたくさんでき、たくさんの英語を使います。「Mr. Holland's Opus」という映画の中で、音楽の授業を廃止しようとする校長に音楽の教師がこう言います。「音楽の授業を廃止して英語(ここでは国語)のクラスを増設するがいい。すぐにみんな何について書いたらいいかわからなくなるさ。」

今から思うと私が"英語を勉強した”のは日本での会社員の最初の二年が最後でした。本当に上級の英語を目指される方は、どうか自分の専門分野を大切にし、英語を勉強するのではなく英語でそれを勉強してください。プロの通訳でも及ばない英語の達人になることでしょう。